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SPECIAL INTERVIEW 医療現場にもソニーらしいワクワクする製品を 先端の電子機器が医療技術の進化を促す 東京医科歯科大学 低侵襲医学研究センター 教授 胃外科 科長 小嶋一幸先生

医療技術とエレクトロニクス(電子)技術は切っても切れない仲にある。実際に医療現場では、数多くのエレクトロニクス機器が活躍している。内視鏡で撮影した映像を3次元(3D)表示するヘッドマウントモニターや、手術の様子を大画面で表示する手術室用大型モニター、その映像を記録するレコーダ、複数の医療機関をネットワークで結び症例検討会を開催するビデオ・カンファレンス・システム、病院内のどこにいても患者の様子をタブレット端末で観察できるネットワーク・カメラ・システムなど、枚挙にいとまがない。
今回は、腹腔鏡手術の第一人者である東京医科歯科大学 教授の小嶋一幸先生に、これまで医療現場でエレクトロニクス技術が果たしてきた役割や、将来のエレクトロニクス技術に対する期待や要望などについて聞いた。
(聞き手:ソニービジネスソリューション 営業部門 メディカル営業部 統括部長 鄭 政彦)

2006年が大きなターニングポイントとなった

小嶋一幸先生
鉗子

腹腔鏡手術の際に使用される鉗子(SILSクリンチ)
画像提供:コヴィディエンジャパン株式会社 様

私が腹腔鏡手術に出会ったのは、今から20年ほど前の1990年ごろのことだ。やっと外科手術を少しずつこなせるようになってきた、そんな外科医として駆け出しのころだった。
腹腔鏡手術とは、腹部に小さな穴を数カ所あけ、そこに内視鏡や電気メス、鉗子(かんし)などの道具を入れて、映像を見ながら施術するというもの。腹部を比較的大きく切って施術する開腹手術と比べると、患者に与えるダメージが少ない(低侵襲)。そのため、術後の回復が極めて早いという大きなメリットがある。
しかし実用化当初は、医師たちの間ではすぐには受け入れられなかった。一方、実際に腹腔鏡手術を試した医師は、その良さを実感し、その多くは専門家になっていった。ただ、問題があったことも事実。内視鏡の画質が「イマイチ」だったことだ。腹部の中が見えづらい。「これでは使えない」と判断した医師もいた。
しかし画質の問題は、エレクトロニクス技術の進化で徐々に改善されていった。そして2006年に、それまでの流れを大きく変える象徴的な出来事が起きる。福岡ダイエーホークス(当時)の監督だった王貞治氏の胃がん手術である。この手術を執刀した藤田保健衛生大学 消化器外科教授の宇山一朗氏は腹腔鏡手術を選択し、見事に成功して見せた。これで腹腔鏡手術の知名度は一気に高まった。
これが転機になった。現在では早期胃がんに対する標準治療のオプションになっており、もはや当たり前の手術である。

「自分に向いている」と直感した

手術

なぜ私が、腹腔鏡手術に積極的だったのか。もちろん低侵襲を実感したこともあるが、もう一つは、「自分に向いている」と直感したからだ。
当時の私は、外科の手術が少しずつこなせるようになり、徐々に自信がついてきたころだった。でも、「巨匠」と呼ばれる先輩の医師たちには足下にも及ばない。追いつくにはまだまだ長い時間が必要だった。ところが腹腔鏡手術はまったくの新しい技術。まだ巨匠がいない。ここで頑張れば、自分がトップを走り、新しい治療を行うことができる。そう思った。
さらに、「両利き」という私の特徴が生かせると考えた。腹腔鏡手術は、小さな穴を介して道具を操作するため、鉗子の動作制限があり、とても不自由な手術になる。しかし両手を自由に動かせれば、操作できる範囲が大きく広がる。私は左利き。子どもの頃、「左利きでは将来困るだろう」と両親が心配し、右手が使えるように矯正された。「左利き生まれの、右手育ち」なわけだ。両手が自由自在に使える。このため、ほかの人よりも有利に手術を進められると判断した。

いずれ人間の能力を超える

小嶋一幸先生
手術

ヘッドマウントモニターを使用した内視鏡手術風景

現在では、腹腔鏡手術は広く普及している。しかし、まだ課題は残っている。進行した胃がんに適用できるのか。患部が食道の近くにある胃がんにも安全に適応できるのか。まだまだ、解決すべきテーマはたくさんある。
だからといって、開腹手術から腹腔鏡手術へという大きな流れは変わらない。いずれは、ほとんどが腹腔鏡手術になるだろう。そのときに問題になるのは、医師の教育である。腹腔鏡手術の件数が増えるからといって、熟練した専門医を短期間に数多く養成するのは困難だからだ。この問題を根本的に解決する方法はない。
しかし、状況を改善する方法がある。それはエレクトロニクス技術を活用する方法だ。例えば、内視鏡の画質が今よりもさらに向上すれば、手術の内容をより理解しやすくなる。装置(デバイス)の使い勝手が改善されれば、より短時間で覚えられるようになる。そうすれば、これまでよりは専門医を短時間で育てられるようになるだろう。
さらに、腹腔鏡手術で使う内視鏡などの性能は、エレクトロニクス技術の進化とともに大幅に向上すると見ている。従来、内視鏡の性能は「人間の目で見えるものと同じものが見えれば満足」と考えてきた。しかし、最近では、人間の能力を超える可能性が出てきた。将来は、肉眼では見えない患部(がん組織)が認識できるようになるかもしれない。今はまだそのレベルに達していないが、10〜20年後にはそんな世界がやってくると確信している。

先端機器の進化に負うところが大きい

ヘッドマウントモニター

ヘッドマウントモニターの重量は約460g。重心位置を頭頂部と後頭部のバンドに分散することで軽いかけ心地としっかりとした固定を両立しているので、いままでの手術の姿勢に拘束されることなく、自由な姿勢で手術をすることができる。


従来の内視鏡手術>姿勢が拘束される/ヘッドマウントモニターを使用した内視鏡手術>自由な姿勢で作業ができる

一般に、医療技術は、エレクトロニクスやメカトロニクスの先端機器の進化に負うところが非常に大きい。先端機器を自分で作れれば、作りたいぐらいだ。しかし、それは現実的ではない。そこで先端機器を製造する企業と、医師が協力する必要がある。
過去には、医師にアイデアがあっても、企業側が「採算が合わない」という理由で実用化に至らないケースもあった。しかし、最近では医療機器の市場規模が拡大しているため、企業側から医師に対して提案を求めたり、聞き取り調査したりする場面が増えてきた。ただ、私のような医師だけでなく、頭の柔らかい若い医師の意見も聞くべきである。きっと、別の意見や、異なる視点を持っているに違いないからだ。
現在、医療現場で実際に使っているヘッドマウントモニターは、ソニーのホームページで目にとまり、「医療で役立つに違いない」と考え、同社の担当者に連絡を取った。ソニー側もビジネスとして成り立つかどうか分からない状況だったが、実用化に向けて積極的に協力してくれた。
今後、エレクトロニクスやメカトロニクスの国内企業には、日本の得意とする小型軽量化をどんどん進めてほしい。将来、ヘッドマウントモニターは、メガネのような掛け心地で使えるようになるはずだ。道具が小さく軽くなれば、医師の体に対する負担が軽くなる。手術を終えた後の疲労度が全然違ってくる。

「ソニーらしさ」に期待

鄭 政彦氏/小嶋一幸先生

小嶋 一幸先生(右)と鄭 政彦(左)

ソニーに対しては、特に強い要望がある。それは、医師がワクワクするような医療機器を製品化してほしいということだ。ソニーは「夢を与えてくれる会社」である。エンタテインメント・ロボット「AIBO(アイボ)」や携帯型音楽プレーヤ「ウォークマン®」などに、みんな心を躍らされた。前述のヘッドマウントモニターもその一つだと考えている。
現在ソニーは、イメージ・センサーなどの医療現場向けの要素技術においては抜きんでているが、今後はさらにAIBOやウォークマン®を世に送り出した技術力を持って、われわれ医師に「どうしても購入してみたい」と思わせるものづくりを期待したい。ヘッドマウントモニターに次ぐ、「SONY」のロゴが入った魅力的な医療機器の開発を楽しみにしている。
(談)

インタビューを終えて EDITOR'S NOTE

photo ソニービジネスソリューション
営業部門
メディカル営業部 統括部長 鄭 政彦

今回、消化器外科の第一人者である小嶋先生へのインタビューを通して、技術の進歩が医療の発展に大きく貢献していることを嬉しく思い、同時に、ソニーに対する期待の大きさと、それゆえのプレッシャーをあらためて感じた。
ソニービジネスソリューションは、長年、放送局向けや企業向けの映像ソリューションの提案を行ってきた。医療の世界のワークフローを理解し、ユーザーであるドクターの声を聞き、課題の解決へ向けた新しい提案をすることは、それと全く同じである。ただ、大きく異なるところが一つある。医療の世界では、ユーザーが人の生命を預かるドクターであることだ。ソニーの技術を通じて、小嶋先生のような名医をより短期間に育てることに貢献し、もっと言えば、より多くの生命を救うことができたらと考えると、身の引き締まる思いであると同時に、それを提供する“現場”に身を置いていることに誇りを感じるインタビューであった。

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